天使のたまご

NHK・BS押井守祭。

8日は劇場用アニメ初監督作品『オンリーユー』。
初めて制作にあたった劇場長編作品。
苛烈な制作現場にあってスタジオ前を通りかかった通行人を
呼び止めて彩色をさせ、挙げ句押井監督自身が彩色を始めるに至り
『肌色持ってこーい!!』と叫んでは、彩色カラーにはそれぞれナンバリングがされていて
『肌色』などというアバウトな指定に『肌色じゃわかんねーよ!!!!』
と怒鳴り返されたというのは有名な話。



本日の監督自身による解説では、そもそも本作は映画として
成立していない作品だと後悔しているようだ。
映画を造ったというよりも、テレビシリーズの延長拡大版を造って
しまったという思いが強いという。


作品の完成に不安をもったまま初号試写後の会議に臨んだが、
その席上で鳥海永行監督が開口一番『面白かった』と言い
押井監督の仕上げたフィルムへの批判をかわしたという。
押井監督はいまでも師匠鳥海監督の気遣いには感謝しているのだそうな。


そんな鳥海監督とも、『ダロス』制作にあたり一作二監督の現場で
壮絶な出し抜き合戦を演じる事となる。



9日は『天使のたまご』と『御先祖様万々歳』放送。
天使のたまご』は難解という評を持ってすべてを語られているが、
本作は押井演出に珍しいひどく官能的な作品だと思う。
なんとなればポルノだと認識している。


兵藤まこ演じる少女のエロティックさは、語らない物語において
より妖しく際だったものになっており、
異性への好奇心と友好を予感し、しかしてはかなくその処女を奪われた
少女の失望と悲嘆の絶叫を響かせた本作。
ロリータ嗜好すら感じさせるインモラルな空気を感じるのは妄想が過ぎるだろうか?


放尿の少女を待ちかまえる根津甚八演じる少年。
少女の大切なたまごを打ち砕き、貧相な少女の身体を成熟した
女の肉体に変貌させる。
その陵辱の背徳感、そして少女が女へと性を変える様がなんとも淫靡である。


この作品に対する反響として押井監督にとって最もショックだったのは
『仕事がこなくなった』事だという。


どんなに難解で不条理なモノを好き勝手に造っても了解されるという
世間を舐めた驕りがあった事を自身が認め反省。
『みんなで幸せになろう』という、独善に処する回答がここに生まれた。


ちなみに『天使のたまご』は本来環八沿いのコンビニエンスストア
舞台の現代劇であったが、天野喜孝のヴィジュアルデザインによって
すべてが覆ったと『ビューティフルドリーマー』オーディオコメンタリに
おいて語られている。

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『御先祖様』は第一話のみ放送。
チャイムの主を追い払うよう犬丸に指示する鷲尾真知子の台詞から
『NHKの集金もよ』が音声カット。
さすがにNHKでの放送において、受信料徴収を断固拒否せよなる
台詞は許されるはずもなく。


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御先祖様万々歳! Vol.1 [DVD]

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その昔発売されたLDボックスセットにはOSTが封入されていた。
それ欲しさに当時LDプレイヤも持っていないにもかかわらず
たまらず購入。
いまなおリリースされる事のない貴重なサウンドトラックであるに
とどまらず、押井作品を演出する川井憲次サウンド真骨頂の傑作である。
特に最終話クライマックス、麿子を追う犬丸が放浪の果てにかつて住みたる
我が家の上空に黄色い飛行船を見つけた時の音楽は衝撃的ですらある。